宮脇正晴先生の品質保証機能独自性説の発展に刺激されて考えたこと(北大サマーセミナー2026)
2026年8月25日
鈴木健治
本稿は、北大セミナー帰りの空港で記載したもので、文献の引用ができていないです。後日、書籍等の出典を明記し、記憶違いがあれば修正します。
北大サマーセミナー2026 宮脇正晴「商標機能論」
北大サマーセミナー2026 (opens in a new tab)、宮脇正晴先生から商標機能論の講義があった。商標機能論は、登録商標の出所表示機能、品質保証機能を害さない商標の使用は、実質的違法性を欠くものとして許されるとする法理で、大阪地判昭45.2.27[PARKER]以来、主に並行輸入に関する裁判例によって発展してきた。
この商標機能論では、出所表示機能を害するような場合に限り品質保証機能は保護されるという田村説(出所表示機能一元説)と、出所表示機能が害されない場合であっても、品質保証機能が害される場合は商標権侵害を肯定すべきとする宮脇説(品質保証機能独自性説)がある。
宮脇説は「問題の商標が付された商品の品質の評価が、同一商標の付された同種商品全体の評価として出所たる主体に向けられると、当該主体の信用を害するおそれがある場合に、品質保証機能が害されていると評価すべき」とするもので、使用許諾であれば53条による取消と通底する商標法らしい発想がある。
品質保証機能独自性説の発展
品質保証機能独自性説に対して、国際的な市場分割を助長するという批判があるが、本日の講義で示された解釈論では、並行輸入について、国内商標権者による形式的な品質追加で商標権侵害が導かれる可能性は高まらない。また、出所表示機能一元説とみられる判決群も出所表示機能に品質保証機能を組み込んで解釈しており、解釈する際の複雑さが増している。
宮脇説は需要者の評価が「出所たる主体に向けられる」かどうかという関係性の解像度を高めることで、機能論を整理しようとしており、保護すべき対象に関する見通しを良くしている。
産業財産権法逐条解説の用語との関係性
弁理士試験を受験した立場からは、馴染み深い産業財産権法逐条解説(青本)の解説と、判決の説示での言葉使いとの相違を確認しておきたい。出所混同と品質保証について、青本は、事業と分離した商標権の譲渡(24条の2)や使用許諾(30条、31条)は、それによって出所を変化させるとしつつ「商品の需要者は商品の出所の混同があっても、品質についての誤認が生じなければ問題はない」と説明する。つまり、事業と分離した商標権の譲渡や、使用許諾制度の導入では、出所表示機能が満たされなくても、品質保証機能が確保されれば問題無い、と読むことができ、出所表示機能を必須とする並行輸入に関する判決の言葉使いとは異なる。
もちろん、商標法や青本は「品質」を「内容」ぐらいの意味で使うことがあり、クオリティー・コントロール(品質管理)をする際のクオリティ(品質)ではないこともありえる。しかし、使用許諾を認めると「専用使用権者又は通常使用権者の商品であって、商標権者のそれより粗悪であったため不測の損害を被るおそれがある」など、「粗悪」かどうかという意味で「品質」を使っている。
おそらくは、昭和34年現行法制定時から、近年の並行輸入に関する判決までの間に、「出所」概念が変遷したのだろうと想定できる。
経営やブランディングとの接続の良さ
経営者、ブランドマネージャー、IR、開示担当者など、知財関係者以外に商標法を説明する際、「品質」は現在の経営でもブランディングでも使う用語であるため、商標の品質保証機能を伝えると理解してもらいやすい。
さらに、近年の経営では、新製品の開発として、機能や品質そのものより、その製品やサービスが顧客にもたらす共感や、体験を重視しており、実際、共感や体験をもたらす製品・サービスが売れる。機能が多くても、例えばボタンが多すぎる家電製品は売れない。ユーザーは、共感や体験とともに、名前やマークを記憶し、再度その名前やマークをみたときに、その共感や体験を想起する。マーケティングやブランディングでは、この想起の機能を経済価値の源泉としてみており、マインド(記憶)にあるブランド・ポジショニングからの想起こそが、その名前やマーク等の経済価値である。
しかし、この想起の機能は、ことさらに商標法で保護すべき新機能ということではなく、品質保証機能や、品質保証機能を取り込んだ出所表示機能を保護しておけば良い。想起する顧客のマインドは商標法が制御できる対象ではない。この想起は、過去の商品やサービスへの共感や体験の記憶からではなく、広告の記憶や、他者の口コミの記憶が良い連想を想起させる。広告がもたらす想起は、現実的な共感ではなく、幻想である可能性があり、田村善之教授は、顧客の幻想によるブランドの経済価値は、商標法が保護するものではないと説示している。
広告による幻想の想起と、体験による品質の想起を分け、会計上無形資産に計上できるブランド資産と、商標権で損害賠償請求できる金額の差額を論理的に求めてみたいが、土台とできる理論をいままで見いだせなかった。出所表示機能と品質保証機能の関連性の解像度を高める宮脇先生の解釈論は、その理論的基盤となり得る体系性がある。