知財業界と専門分野

知財業界と専門分野: 好奇心による過剰な学びが専門性を広げてた仮説

2026年7月1日

鈴木健治

弁理士の日記念ブログ企画2026

本記事は、独学の弁理士講座 -弁理士内田浩輔監修-による「弁理士の日記念ブログ企画2026」参加記事です。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2026/ (opens in a new tab)

相手(クラスタ)ごとに異なる自分の自己紹介を洞察してみたところ、「好奇心による過剰な学びが専門性を広げてた仮説」に至りました。

略歴

https://www.intprofy.co.jp/KenjiSuzuki (opens in a new tab)
Research Map
https://researchmap.jp/intprofy (opens in a new tab)

相手(クラスタ)ごとに異なる自己紹介

 最近の自己紹介が、相手によって次のように変遷する。この「弁理士の日記念ブログ企画2026」に参加することで整理し、統合させたい。

会計クラスタ向け

 知的財産権の価値評価をします。特許権が連結調整勘定に入っていたころからです。最近、統合報告作成支援をしてます。弁理士でもあるので、特許情報・商標情報を非財務情報として、どう財務情報と結びつけることができるか考えています。その点、のれんの議論などは興味深いです。

金融クラスタ向け

 不良債権処理の時代に、資産査定・自己査定に関するソフトウエア関連発明の特許出願の代理をしてまして、バーゼルのリスク評価モデルをだいぶ勉強しました。事業性評価で参照されている知的資産経営と経営デザインシートはつながっていて、経営デザインシートの普及活動をしてます。中小企業診断士との知的資産経営の研究会に参加し、信用金庫主催の創業スクールの企画・運営や講師してます。経営デザインシートKDSも活用し、KDSで描いた未来を楽観、普通、悲観で定量化して、悲観シナリオでも返済できる事業計画の策定を促してます。

中小企業診断士向け

 企業再生などの局面で、特許権が差し押さえられると、執行裁判所から日本弁理士会に経済的価値評価をする評価人の推薦依頼がきます。その評価人の育成や推薦をする組織の枠組みをつくることをしてきました。その後、知的資産経営や経営デザインシートの普及をし、まず事業の未来を一緒に構想し、さらにそれを守る知財活動を提案しています。毎年、知的資産経営WEEK参加のイベントをしたり、知的資産経営や経営デザインシートを実践したい中小企業診断士向けの育成コースの企画運営をしてます。

上場企業の経営企画、IRや広報向け

 WICIジャパンというところで統合報告のご担当者向けのセミナーを企画・運営しています。事業会社向けでは、参加者のご意向によっては交流会などに発展してます。弁理士でもあるので、統合報告書等での特許情報の開示例など考察し、論文にしてきてます。株式会社知的利益をつくり、統合報告の編集・発行の支援を有償で受注してます。私はWebアクセス分析ができるので、アクセス権をお預かりできたら、IR情報や技術情報の発信で、どんなキーワード検索で流入しているか、生成AI経由のアクセスが増えているかなど確認しながら提案してますし、いろいろな部門との付き合いがあるので、統合報告に向けた部門間の対話に同席させていただいて、通訳したりもしてます。

社内の研究支援サービスを充実させたい知財部門・知財担当者向け

 まず統合報告書に顔をだし、経営戦略を早く正確に把握できる体制をつくりましょう。その経営戦略の数値目標や事業ポートフォリオにあわせて、研究パイプラインの理想像を知財部門なりに整理します。生成AIを使って、優れた投資家からの期待について自社への質問文を作ってもらうなども有用です。特許庁の知財経営に関するプロジェクトに参加した経験もあり、経営、企業開示、研究パイプラインに、知財活動を繋いでいくための提案や手伝いをしています。
(業種ごとに受注枠を設けているので、業種によっては受任できないです。)

法学者・信託法学者・研究者向け

 2006年(平成18年)の信託法改正のための法制審の信託法部会に、日本弁理士会の枠でオブザーバーとして座っていました。知的財産権の信託について、法務省や信託銀行の方と相談したり、新井誠先生のコンメンタールに書かせていただいたりしてきてます。信託法学会に入ってます。特許法ではライセンシー保護に関与し、通常実施権の当然対抗の導入につながりました。最近は、特許を受ける権利の譲渡担保や、企業価値担保権と特許法等の登録制度の関係など、気になっております。

経営学者・会計学者・研究者 [統合報告] 向け

 統合報告の作成支援をしている経営コンサルタントで、また、弁理士でもあります。企業開示のグローバルな動向を把握して、WICIジャパンというところでセミナーの企画運営などをし、企業の統合報告等の担当者と情報交換をしています。いくつかのチャンネルでIFRS財団と日本の統合報告関係者の接点の維持に貢献していたりもします。

経営学者・会計学者・研究者 [財務・実証] 向け

 弁理士として知的財産権の価値評価を行い、並行して、株式会社の方で統合報告書の作成支援をしてます。知的財産権の経済的価値を計算する際に、どう市場規模やシェアの情報を探し、取り込むかということと、統合報告書や有報などの企業開示で、財務情報にどう特許情報など知財情報を関連づけていけるかを考え、助言等しています。
最近は、特許のポートフォリオと未来の事業ポートフォリオの関連づけや、研究パイプラインをどう管理すべきかなどに興味があります。

創業者向け

 横浜信用金庫の創業スクールの企画運営をしていて、毎年20名ぐらいの創業者に教え、相談をうけて、すぐ融資を受けたいという人とは個別に相談もしてきています。別途、ソフトウエア関連の創業間もない個人や法人からの特許出願代理もしています。経営デザインシートというツールでビジョンやパーパスのことばを大切にしながら未来像を数字なしで描いてみて、その未来像を起点に月商や損益分岐のシナリオを求める仕組みをつくってきました。悲観シナリオでも返済できる事業計画を一緒に作成し、その後、商標の出願代理や、技術系であれば特許出願の代理もします。創業者間のコミュニティ形成にも寄与してきていて、幹事してくれる創業者などと協力して一人にならず相談できる環境をつくってます。

日本弁理士会クラスタ向け

 私、知的財産権の価値評価が注目されたときに弁理士なり知財業界を守るために価値評価の委員会を付属機関にする大仕事をして、また、信託法改正のときに弁理士の専権を守ることに貢献してきました。もう普通の弁理士の20人分ぐらいは会務したので、もう会務は卒業と考えてます。神奈川委員会に行ってみたのだけれど、すぐ作業が増えるので、多少貢献して、それで継続はやめました。

生成AIのリスクと機会

 反AIと呼ばれたり、日本で最初にあることでChatGPTを使ったとして読売新聞の1面で紹介されたり、クリエーターの著作権訴訟を支援したり、生成AIの活用方法を上場企業のいくつかの部門や中小・中堅企業に導入支援してます。ご都合主義ではなく、生成AI活用には基本的に抑制的で、情報解析としての生成AI利用は許容範囲です。
文化的な表現を学習し、文化的な表現を出力する生成AIは使うべきでなく、クリエーターやコンテンツを持つ企業が学習を禁止できるようにすべきです。学習コンテンツの市場と競合せず、かつ、情報解析である使い方は自らにも他者にも許容範囲として要望があれば有償で導入を支援しています。
例えばWeb検索、文献からの該当ページの探索、論理的整合性の確認、複数文書の記述の文脈に応じた抽出やカテゴリー分け、完成像が明確で著作権侵害にならないコーディング、平均的で個性のない翻訳など。
コンテンツ系生成AIの利用を控えるべきことについては、取引先企業には、理由も伝えず止めてくださいと申し上げるのではなく、例えば広告での生成AI画像の利用ではその表現が古びる期間がとても短く、あっという間に陳腐で古くさくなるという事実や、生成AIコンテンツを安易に利用すると将来クリエーターの協力を受けられない企業になることなど、それなりに観察していることの要点を伝えてます。

バーゼル規制を起点とした専門性の広がり

バーゼル規制が採用するリスク評価モデル

 特許の仕事で、金融のバーゼル規制の内容を理解することが必要となり、面白くて、必要以上に解析しました。日本語の書籍の他、当時日本語になっていなかった次の資料などです。

An Explanatory Note on the Basel II IRB Risk Weight Functions
https://www.bis.org/bcbs/irbriskweight.pdf (opens in a new tab)

 直接分からないことを、分かることでどう計算していくか、とても勉強になりました。つまり、見えないリスクを、測定できる代理指標の組み合わせで推定しようという点で、バーゼル規制にはいろいろな工夫があります。規制施行前の実データによる検証も丁寧に行われ、調整されていました。

専門分野を広げてた仮説

 私が専門分野を次のように広げていったのは、好奇心の他に、このバーゼル規制の仕組みへの興味から過剰に学んだことがあります。

[1] 特許出願・商標出願・意匠出願や、特許情報等の調査に際しての知財リスクの評価や見立て
[2] 知的財産権の経済的価値評価、特に、市場規模、市場シェアや市場環境を代理変数で見立てること
[3] 市場情報も参照した職務発明の対価額の評価
[4] 知的財産権の損害賠償額の評価
[5] 銀行や信用金庫など、間接金融の理解と協調
[6] 上場企業の経営や企業開示、投資家の動向など直接金融の理解
[7] 創業者から大企業まで、企業開示すべき点の洞察や経営デザインシートの利活用
[8] 経営戦略に連動した知財活動の模索、提案や統合報告書等での開示
[9] 免除ロイヤリティ料率を使った財務と非財務の接続
[10] ポートフォリオ理論を援用した事業ポートフォリオと特許ポートフォリオの関連性分析
[11] Google Analytics 4やSearch Consoleのデータを使ったWebアクセス分析、特に、マーケティング、ブランディング、技術トレンドの推移の洞察への応用

 また、Covid-19が流行したとき、発症前に感染力があり、かつ、エアロゾルで感染するという対応の難しさのなか、スマホを用いて陽性者との接触を通知する仕組みがApple | Googleによって開発されました。ソースコードも公開されていたため、解析してみたところ、バーゼル規制を理解するよりも楽に理解できました。

 その結果、Apple | Googleが想定していないログから特定できる「接触日」に気づき、「接触日シート」というWebサービスのようなものを日々更新し、リスク評価したい人たちに届けることができました。妹の結婚式に出席すべきかどうか、高齢の教授との対面相談の日を延期すべきかなどに悩む人たちに、陽性登録者と何日に接触した可能性があり、それがどういう意味かを、主にTwitter(当時)のDMで相談できました。この相談は、特許相談など時間が限られた無料相談で培った弁理士としてのスキルが少し役立ちました。
また、日本の接触確認アプリCOCOAのバグの原因の分析や、バージョンアップへの提案などをGitHub等を通じて行うこともできました。
バーゼル規制での反省が、TCFDにつながっているという仮説を見いだしました。バーゼル規制では基本的に漸近的単一リスクファクターによる一律の規制を適用し、信用リスクを抑えきれませんでしたが、TCFDはおそらくはその反省に立ち、各企業に自らリスク評価せよ(リスク・アペタイトせよ)という仕組みを導入したと想定しています。このリスク・アペタイトは、その後の企業開示のトレンドを決定づけ、様々なルールが錯綜するなか、私は、歴史や経緯としてそれなりに確からしい見立てで、サステナビリティを含む統合報告についてのコンサルティングやセミナー等を企画運営できました。

 特許と無関係のようですが、例えば、研究開発による特許出願のうち環境貢献製品の比率を開示するのも、TCFDの影響下にあります。「流行だから、みんなしてるから、やろう」レベルではない歴史があります。また、特許の目線で統合報告をみるのではなく、統合報告の目線で、特許情報開示の意味を考え続けることができています。統合報告なり企業開示の目線があるからこそ、知財側の考えも経営企画やIRの人たちに説明してくることができています。

提言: 好奇心による過剰な学びで差別化

 私にとっては、このリスク評価なり、バーゼル規制について、過剰に自己投資をして学んだことが、その後の新たな出会いにつながりました。おそらく、全ての人にとって、好奇心による過剰な学びは、専門性に広がりをもたらす重要な知的資産になります。バランスシートには計上されないけれど、好奇心による過剰な学びは、自分や周りの人たちの知的成長をもたらす重要な差別化要因で、成長ドライバーです。

 そのように楽観的に考えると、「知財業界と専門分野」という一群の記事は、知財業界の未来を描く際の重要な情報源となるでしょう。

 知財部門から、経営企画、サステナビリティ、品質管理、研究支援・管理などに異動した人、兼務する人、知財部門に属しながらプロジェクトで深く協力し始めた人と話す機会があります。
根拠のない私の直感によると、特許調査、商標調査、意匠調査のスキルは、他部門で新たな意味を持ちます。生成AIを使っても使わなくても、好奇心に従った過剰な学びは、調査スキルとのかけ算(シナジー)の相性が良く、知財の経験が幅広くスピルオーバーしていくでしょう。自分が回収できるかは分かりませんが、自社や市場や社会に知財業界の経験が貢献していきます。

自己紹介(統合版)

 知財業界は、21世紀の半ばには、権利化・出願をしつつ、他部門への専門サービスとなっていきます。特許調査のスキルを手がかりに、研究者の研究が成果をもたらすための支援をしていくことが、知財部門や特許事務所の仕事になります。商標調査のスキルを手がかりに、社内のブランド・マネージャーにリスクと機会を報告し、その事業計画に伴走することが、知財部門や特許事務所の仕事になります。
そのような次のステージでは、知財業界の人たちが、いままで、どのように好奇心に従って非合理な学びをしてきたかが、効いてきます。自分が無駄に学んできたことを、他の人に役立てたい人や組織を、私はこれからも支援していきます。
特に、企業開示、技術情報発信、ブランド・ポジショニング、Webアクセス解析、リスク評価と事業計画、創業・新規事業開発などを支援していきます。経営に役立つツールの公開をしていきます。
研究では、公衆衛生の分野で接触日シートのデータの報告をなんとか仕上げた後、企業開示、統合報告、統合思考とインタンジブルズ、経営デザインシート起点の利益デザイン、知的財産権の損害賠償論、自分の人生で間に合えば知的財産権の担保法制、ベイズの法則と自由エネルギー原理、など考えていきます。